─羨ましかった?
赤星さんの口からそんな言葉が飛び出るとは思わなかった。
だってあたしのどこにも、彼女が羨むような部分は見当たらない。
「…あたし、ずっと櫻華に来たくて…受験でものすごくしんどい思いしてたから。編入とかで、努力も無しに才能だけであっさり入ってきた結城さんが」
「……」
来たくもない、最悪な場所だと初めから決めつけていた自分を振り返り、胸をきつく握られるような気持ちになった。
ここをただの逃げ場にしていたあたしが、この場所に受け入れてもらえるはずがないのに。
それから赤星さんは幾度かためらうような素振りを見せると、ゆっくり口を開いた。
「それに…。あの、小笠原さんと…結城さんすぐに仲良くなれたじゃない?みんな彼女に憧れてて、それなのに…すぐ」
俯いた赤星さんの顔は真っ赤だった。
付け足すように言われた言葉はずいぶん早口だ。
なんだか聞いているこちらまでソワソワしてしまって、足元が落ち着かない。気がついたらあたしは、心に浮かんだ疑問をそのまま口に出していた。
「赤星さんさ…葵のこと…好きなの?」
一瞬の間が、二人の間に落ちる。
えっ、と小さく息を呑むのが聞こえた。
ガタンと傾く椅子。赤星さんの瞳が、大きく揺らぐ。古びた白をまとうカーテンが煽られ、広がるように波打った。
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