独り言のようにそう言うと、赤星さんの顔がこちらを向いたのがわかった。
「あたし…赤星さんにはずっと嫌われてると思ってたから…」
今まで、冷たい表面上の言葉か、敵意をむき出しにした怒りの言葉しか言われたことがなかったから。
今こうして普通に話していることすら、あたしにとっては不思議だった。
「…私ね、今まで結城さんは何事にも真剣に取り組まない人だって…ずっと思ってたの」
彼女の足元に伸びる緩やかな影は、あたしの元へとスッと続いていた。
─入学当初から、確かにあたしはすべてのことに投げやりだった。
目標を失って、ただ流されるままに生きていたのだ。自ら関わりを持たず、周りの世界に殻を作るようにして。
「でも私、結城さんは本当に頑張ってるってわかってたもの」
日が少し高くなってきたようだ。赤星さんの輪郭をかたどっていた影が、ほんの少し退いていく。
彼女がこんな風に穏やかに笑えることを、初めて知った。
「…それにあたし、結城さんのこと嫌ってたわけじゃないの」
「え…?」
「羨ましかったの、結城さんが」
.