「男の人の役だし、一人で言う長いセリフもあるし…こんな役だと思ってなかったから」
「…やりたくなかった?」
赤星さん、無理やり引き込んじゃった感じだったから──葵がためらいがちにそう言っていたのを思い出す。
あたしの言葉に、赤星さんは大きく目を見開いた。
シン…と静まり返った室内。無言の空気は、徐々に重みを増していく。
様子を伺うように顔を上げると、そこには真剣な赤星さんの顔があった。
「…嬉しかったわ」
あたしの心にそのまま響く、真っ直ぐに発された言葉。
あたしは釘付けにされたように、彼女の瞳から目が離せなかった。
「小笠原さんが一緒にやろうって言ってくれて…すごく嬉しかったの」
まるで桜の色を一滴落としたように、うっすらとまあるく染まった彼女の白い頬。
『葵の前じゃ、恋する乙女みたいだね』
みどりのからかい口調で言った言葉が頭を回る。
あたしが何も言えずにいると、赤星さんはゆっくりとそばにあった椅子に腰掛けた。
「昨日、あれから部活終わりに小笠原さんがここに来たの。結城さんのこと…すごく心配してた」
「葵、来たんだ…」
「うん…でもみんな帰っちゃってて、あたししか残ってなくて…」
机に途中になったままの色紙の花びらが摘まれている。
本物よりもずいぶん色濃いそれは、早朝の淡い光の中では少し目立ちすぎていた。
「…でもあたし、赤星さんがかばってくれると思わなかった」
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