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少し早いだけで、こんなにも肌に感じる温度が違うのか。

じわじわとしみ入るように、空気が冷たい。


「さっむ…」


今朝、妙に早く目覚めてしまったあたしはそれからもう一度寝付けずに、ひっそりと一人家を出ていた。

ふぁぁ、と大きなあくびをすると、涙で視界が滲む。まだ周りの景色はずいぶん白いといった印象で、道路の人通りもまばらだった。

敷き詰められたような車が見当たらないその場所は、なんだか異空間のようだ。もう一度あくびをすると、重い瞼をこすった。



昨日の晩はよく眠れなかった。


気まずい雰囲気のまま、昨日の練習は尻切れトンボになってしまった。胸にはムカムカとした消化しきれない黒いものが渦巻いていて、憂鬱な気分は一向に晴れない。


訪れるのは浅い眠りばかりで、そのくせ夢は見なかった。

何度も寝返りを打ったが、頭に浮かんでくるのはそのことだけだった。


…もしかして、今日の稽古にはもう誰も来ないかもしれない。


そう思うと、いてもたってもいられなかったのだ。



公園の抜け道から真っ直ぐに向かうあたしの頭上に咲く桜たちは、旧校舎へと近づくにつれ密度を増した。

白い光に包まれた校舎は、いつもに増して幻想的な雰囲気を放っている。
ギシギシと軋む窓は、時間外の訪問者のあたしを警戒しているように思えた。


昨日あたしたちが帰ってしまった後、あの教室はどのような思いで今日を迎えたのだろうか。

散らかったままになった教室内を思い浮かべながら、湿っぽい空気を含んだ廊下を歩いていく。


「────?」


やっと辿り着いた教室のドアノブを握って、あたしはその場に固まってしまった。


…息を呑んだ。


古いドアの向こうから、今の時間に聞こえるはずのない言葉が耳に吸い込まれてきたから。



「その…な瞳で、もう一度…見て下さい!」


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