憂鬱な出来事は重なるものだった。泣きっ面に蜂、とはよく言ったものだと思う。


「結城さん、どういうおつもりですか?」


神経質な面持ちで眼鏡の奥からあたしを睨みつける鋭い目。

結い上げられた髪には後れ毛一本となく、まさにそれは完璧な防御壁みたいだった。

あたしは学校に着くなり、教頭室に呼び出しをくらっていたのだ。


「どうって言われても…」

「先日の騒ぎのことです!本校とは関係ない男性を連れ込むなんて…」

「連れ込んでなんかいません」

ハッキリと言い返すと、教頭先生は苛立ちを露わに口を歪めた。

唇に引かれた真っ赤な口紅が、あたしを忌々しそうに見下す。


「とにかく!風紀が乱れるようなことは謹みなさい!!だいたい編入生ということだけであなたは注目されているんですよ?」

「注目?」

「本校は普通、編入生などは認めていないのです。前にも言いましたが、それを特別に──」
「編入させてあげたのに、ですか?」

どうでもいいような口振りで教頭先生の言葉を遮ると、眼鏡の奥の彼女の瞳がこれ以上なくつり上がるのが見えた。

また罵声が飛ぶのは目に見えている。ああもう、耳を塞いでしまいたい。


「だったら少しでも学校に貢献できることをなさい!!」


あなたのお姉様が優秀な櫻華卒業生だったこと、それからあなたの過去の音楽成績を考慮してのこと──あたしの編入を認めたのはそういうわけだと、転校当初に教頭先生は言った。

一体今のあたしに何を求めているというのだろう。

目の前の彼女は、決まりと伝統にガチガチに縛られた…この学校の象徴のようだ。


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