悩みの種は赤星さんだけではなかった。

初めはみんなやる気満々で取り組んでいるのが伝わってきたが、最近はなんだかだらけてきてしまっている気がするのだ。

実際、ちらほらと休む人が増えて全員揃う日は珍しくなっていた。



「赤星さん、ほんとはやりたくないんじゃないのかな」


帰り道、いつも通り校門に向かう足取りはなんだか重かった。

頭上の桜の枝には、チラホラと緑が見え始めている。葵の握るカバンがぶらりと大きく揺れた。


「なんで?」

「ううん、あたしが無理やり引き込んだ感じだったから…」

葵はそう言うと落ち込んだように肩をおとす。

伏せられた長い睫毛がキラキラと、太陽の光を反射していた。


「今続けてられるの、葵のおかげじゃん!赤星さんにバレた時…うまく取り繕ってくれたでしょ?」

ポン、と背中を叩くと葵は力ない笑みを浮かべた。

「…それから悪いんだけどね、あたし明日はどうしても部活に出ろって先生に言われてて…」


本当に申し訳なさそうにごめん、と顔の前で両手を合わせる葵。

もともと葵は陸上部のエースだ。急に何日も部活をないがしろにするわけにはいかないのだろう。


「…わかった!しょうがないよ」


ごきげんよう、とお決まりの挨拶が夕日に跳ね返るように幾度もこだまする。

笑みを貼り付けてはみたものの、自分でも下手な笑い方だったと思った。


…内心、あたしはとても焦っていたのだ。


三幕あるうちの、まだ一幕も完成していなかった。



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