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「まぁあなた、失礼だけど何にもわかってないわ。この地方で誇るべきものがあるとすれば、それはただ一つ!うちの桜の園なのよ」

「こ…この桜の園が優れているのは、非常に大きい…ということだけ…です。さくらんぼは二年に一度しか…ならないし──」

「赤星さん、それじゃ聞こえないよぉ〜!!」

しばらく黙って様子を見ていた奈々美が、しびれを切らしたように台本を椅子に叩きつけた。

パン、と鳴る渇いた音に、俯く赤星さんの顔。

教室の所々でまたか、口々に囁かれるのが聞こえた。


室内の雰囲気がイライラしているのを肌に感じる。

もうここずっと、同じ光景ばかりだ。


「…じゃあもっかいやろっか。葵のセリフから…」
「ねっ!桃っ!!最初の帰ってくるシーンやろうよ〜。もう座ってばっかり疲れちゃった」

「あっ、いいね!あたしもそこ大好きなんだぁ〜!!」

美登里も息を吹き返したように勢い良く立ち上がり、奈々美に加勢する。

仕方なく最初の方のページを開き、自分のセリフをもう一度確認する。


「ロパーヒンはセリフないし、赤星さんはいいよね!」

「桃、はーやくぅ〜!!始めるよ!」

「…赤星さん、ちょっと一人で練習しててくれる?」


ガヤガヤと集まってセリフを確認する美登里たちの輪からぽつん、と外れた赤星さんは、小さく唇をかんだまま頷いた。

なんだかどうしようもない気持ちになって視線を流すと、葵の黒目がちな瞳とかち合う。

あたしが情けない眉のままに笑うと、台本をヒラヒラさせて葵も苦笑いを返してくれた。


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