「でもさすがだな、櫻華の力ってのは」

「…え?」

「俺、ダメもとでここのオーナーに頼んだんだ。そしたらオーナーの奥さんも元櫻華生だったみたいでさ。それならぜひうちで…って」


よっと舞台に上がると、洲は笑みを浮かべながらあたしに手を差し出す。

一瞬戸惑ったが、あたしは強くその手を握った。


「お前重て〜…」

「う、うるさいなぁっ!」


弾けるように笑いながら、もう殴られるのは勘弁と頭を抱える。

引き上げられた舞台の上からの視界は、いつもよりずいぶん高い。

…まるで世界が広がったようだ。お互いにしばらく黙って、ただぼぅっと前を見ていた。


未だに握られたままの手。淡く浮かび上がる、洲の輪郭。


「"桜の園"…もうお前らだけのもんじゃねえぞ」


うん、と言葉なしに深く頷く。

その言葉の重みを、しっかりと心に受け止めた。


あきらめた夢。

親に決められたままに、入学した女子高。

流されるままに、ただ何となく過ごしていた日々。


その中で見つけたのだ。一生懸命になれる、唯一の光。


「…うん」


もう一度頷くと、繋いだ右手に力をこめた。


きっとあたしは大きく変わっていける…そんな気がしたから。





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