たどり着いたのは年期もののライブハウスだった。

所々落書きがされたりはげたりしている。けれどなぜか落ち着くようで、決して不快な場所ではなかった。


「ここなら音響は悪くねぇし、ちょっと狭いの我慢すりゃ観客もわりと入る」

見慣れない場所が珍しく、ぐるぐりと辺りを見渡す。

いつも洲は、こういった場所で演奏しているのだろうか。舞台の上で彼がサックスを吹き鳴らす姿を頭の中で描いた。


「いいじゃん洲、よく見つけたね」

「よく見つけたね、じゃねーよ。…ったく、芝居できる場所ねーかって言ってたのお前だろ?」

「…てゆーかライブハウスに行くって最初から言ってくれればいーじゃん!」

さすがはライブハウスというのだろうか。言葉が一つ一つ、大きく響く。

俯いて、ローファーの先へと視線を落とした。


「あんな強引に…っ!!絶対みんなに誤解されたよ…」

「誤解されちゃ困る?」


洲の声も、静かなこの場所にこだまするように響く。

驚いて顔を上げると、あたしをからかうように洲はいたずらっぽくニヤリと笑った。


「こ…困る困る、最上級に困るっ!!」

「ははっ!最上級ってなんだよ」


笑い続ける洲の後頭部に、バシッとカバンをぶつけてやった。眉をひそめる洲の顔がライブハウスのカラフルなライトに照らされ、あたしはそれを見てざまーみろと笑い返す。


いつものすました顔に戻りながらも、それでも心臓の鼓動はいつもよりずっと速い気がした。



洲の目が、ほんの一瞬だけ…真剣だったから。



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