校門の前はひどい騒ぎだった。よく先生が出てこないなぁ…と思えるほどにキャアキャアと飛び交う甲高い声。


…しかしその原因が、まさか自分だとはまったく思いもしなかった。




「桃!!」

「……?」


思ったよりも長引いてしまった稽古。もう辺りにはすっかり夕方の空気が立ちこめていて、空の向こうではうっすらと闇を迎える準備が始められていた。

稽古を終えて葵たちのいつもの四人メンバーで校門まで歩いて出ると、人だかりの中心人物があたしに向かって手を挙げたのだ。

照れくさそうな、困ったようなその人の顔を認識したあたしの驚きといったら。


「…し、洲っ!?」


…それはもう、目が飛び出す勢いだった。


「えええええ〜っ!?桃、だれだれっ!?」

「もしかして桃の彼氏!?」


左右、両袖を美登里と奈々美に引っ張られ、ぐらぐらと揺さぶられる。

周りの生徒たちも、ワァッと楽しそうな声を上げてあたしたちを遠巻きに囲んだ。


「…何してんの」


思ったよりもずっとそっけない声になった。

この前の電話で、弱い部分を見せてしまったのがなんだか妙に恥ずかしかった。カバンを握る手のひらに、ぎゅうっと力がこもる。


「…女子校でナンパ?」

「は、ちげーよ!お前ずっと携帯の電源切ってるから、わざわざ知らせに来てやったんだよ」

「……?」


頭に疑問符を浮かばせたままのあたしに、洲は呆れたように口元を下げて頭を掻いた。


「…いいから来いって」

「ちょ…っ、洲!!」


強引に腕をつかまれて、そのまま連行される。

走り出す背中。後ろの背景になっていく女生徒の群れ。

その中には呆然としている美登里たちの顔があった。


「ホラ、乗れ」

「は?訳わかんな…」

「いいから。おいてくぞ」

半ば無理やり自転車の後ろに乗せられる。あたしが腰をおろすやいなや、タイヤは勢いよく回って走り始めた。


「〜洲ってば!一体なに──」
「ここにいるのどんだけ恥ずかしかったと思ってんだよ」


ほんのり赤く染まった洲の耳。

行き場をなくしたあたしの腕は、目の前にある大きな背中にしがみつくしかなかった。

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