目の前が真っ白になった。
真っ白だか真っ黒だかもうわからなかったけれど、何もかもが崩れ去った気がした。
みんなも同じ気持ちだったのだろう。貼り付けられたように椅子に腰を下ろしたまま、視線だけが泳いでいる。
美登里たちに至っては、教室の中心で手を取り合ったまままるで銅像のように停止していた。
「赤星さん──、」
なんで───?
言葉が喉につっかえて出てこない。
ドアを開いて立ち尽くしているのは、間違いなくあの、赤星真由子だったのだ。
彼女だけにはバレちゃいけないと、あんなに気をつけていたつもりだったのに。
ドアを開いて信じられないものでも見た、と物語る彼女の顔からいつ怒りの色が現れるか…それはもう秒読みだと思った。
─しかしそれは、慌ただしくこちらへ向かってくる足音でかき消されることになったのだ。
「ごめんっ!遅くなった!!」
長い黒髪は、凍った空気をかき乱すかのように鮮やかに彼女の到着を知らせた。
「葵……!!」
「ごめんちょっと長引いて…って、あれ?赤星さん?」
葵もこの異様な空気を感じ取ったのだろう、一瞬眉間にシワを寄せたがすぐに納得した表情になる。
葵に名を呼ばれた赤星さんの顔が、あたしにもわかるくらいに一気に赤くなった。
「よかった。赤星さんも入ってくれるんだ、"桜の園"」
「えっ…」
呟くような赤星さんの小さな声は、戸惑いそのもので少しかすれていた。
「嬉しい。人数足りなかったの…助けてくれない?」
優しい笑みにトドメをさされたかのように、赤星さんは俯くと口を小さくつぐむ。
あたしが知っている威勢の良い赤星さんは、もうどこにもいなかった。
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