放課後のチャイムが鳴るなり、あたしは素早く机から教科書を引き出した。
カバンに突っ込むと、まだガヤガヤと楽しそうな雰囲気を放つ教室を後にする。
いつもなら美登里を待って一緒に行くことが多かったが、赤星さんの視線を気にすればとてもそんなことはできなかった。
「どしたの桃〜?そんな急いで」
旧校舎の教室に息を切らして飛び込むと、先に着いていた奈々美たちが目を丸くした。
「うん…、別に…」
「そ?あ、葵が今日部活の顧問の先生と話あるらしくてさ、ちょっと遅れるって〜」
「…そっか」
ふう、と息をつくと、近くにあった椅子にカバンを下ろす。
今日一日、無駄に緊張したせいか、もうすでにいつもの何倍も疲れていた。
台本を取り出してパラパラとめくり始めた時、大げさな音を立てて教室の扉が開いた。
そこから覗いたのは、馴染みのあるまあるい頭。
「…あ〜っ!!桃っ、捜したのにぃ!なんでおいてくのよ〜」
「美登里」
ごめん、と手を合わせると、美登里の膨らんだ頬が少ししぼんだ。
尖らせた唇は、まるでヒヨコのくちばしみたいで可愛らしい。
「…あのね、美登里実は──」
「てかねっ!!決めたとこまで覚えてきたよー!台本っ!!」
自慢気に突き出された台本には、美登里の配役のワーリャの所にきっちりとマーカーペンが引かれている。
美登里は息を吸い込むと、一気に吐き出すようにして声を上げた。
「ちょ…ちょっと美登里ぃ、待ってよー!!ちょうど葵以外揃ったしさ、みんなで読み合わせしよっ!ねっ?」
奈々美もこちらに駆けつけると、台本をもってニッと歯をのぞかせた。
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