「……え?」
恐る恐る振り返ると、目の前には赤星さんの挑みかかるような瞳があった。まるであたしを威嚇するように、容赦ない強い視線。
「さっき沢さんが言ってたじゃない。あなた、何を企んでるの?」
「…べ、つに…何も…」
…迂闊だった。赤星さんはあたしのすぐ後ろの席なのに、よりにもよって"桜の園"の話をしてしまうなんて。
赤星さんのことだ。立ち入り禁止の旧校舎で、いわくつきの演劇をしているなんてわかったら、即刻先生たちに告げ口するに違いない。
「はーい、みんな席について〜!!おしゃべりもやめるっ!!」
あたしが必死に繋ぎの言葉を探しているうちに、ちょうど先生が教室に入ってきていた。
教卓の前に立ち、早速教科書を広げている。
(助かった……)
なんとか追求から逃れられたことに安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。
未だに感じる、背中の強い視線。
ヒヤリ、と大粒の汗が背筋を伝う。
台本を下に敷いた英語の教科書を、上から必死で押さえつけた。
バレたら何もかも台無しだ。
彼女だけには。
…赤星さんだけには、バレないようにしないと。
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