「あ、ごめ…!!ライブ終わったんだよね。今から打ち上げとかでしょ?」
せっかくライブ後の盛り上がった気分で、洲はあたしに電話してきたのに。ライブの話を聞くどころか、自分のことばかり話してしまった。
「あ〜うん、俺こそ遅くにごめんな。…つーか、ほんと話ならいつでも聞くから、電話して?つーか、しろ。」
「…ふ、なんで命令口調なのよ」
あたしが笑うと、電話越しに洲も笑った。空気が振動して、向こうにまで伝わっているみたいだ。
バイバイ、そう言って切ろうとした時、洲がそれを引き止めた。
「あのな、俺思ったんだけど。舞台さ…」
カーテンの隙間から、星が瞬く。淡く白い光は、時に鋭く、時に優しく姿を変える。
「ライブハウスとか、どうかな?」
………
「いーじゃん!それなら若い人も見に来やすいし。学校にもバレないよ!!」
「すごいね桃!!」
朝方、美登里とクラスに遊びに来ていた奈々美にそのことを話すと、二人とも目を輝かせて食いついてきた。
「どうするー!?スカウトとかされちゃったら!」
「芸能界とかっ!やばーいっ!!イケメンの相手役とかっ!!」
きゃあきゃあと手を取り合って夢のような会話を弾ませる二人に、何度目かの苦笑いが漏れる。
悪い子ではないし、明るい二人はとても好きなのだが…脳内お花畑のこの妄想っぷりにはとてもついて行けそうになかった。
チャイムが鳴り、慌てて奈々美が教室を去った後、やれやれと机の中を探る。
一時間目の英語の教科書を机に取り出すと、その下にひっそり台本を忍ばせた。昨日中に覚えるはずのセリフを、もう一度確認しようと思ったのだ。
「結城さん」
…その時だった。
あたしの背中に、鋭く冷たい声が刺さったのは。
「学校にバレない…って、一体何のこと?」
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