息を呑んだ。
吸い込む空気が、熱くなった気がした。
どうして──。
黙り込んでしまったあたしを不思議に思ってか、電話の向こうの低い声が、「桃?」とあたしの名を呼ぶのが聞こえた。
慌ててあたしも、自分の声を取り戻す。
「あ…ううん、何かあった、っていうほどじゃ、ないんだけど…」
「うん」
「今ね、色々あって…友達何人かで演劇しようってなってるんだ」
「演劇?」
「うん。でもなんか…うまく進まなくって。あたしばっかり一生懸命っていうか…会場とかも、全然決まらないし…」
話し始めると止まらなかった。こんなことを洲に話せば困らせることはわかっていたのに…それでも。
やるからにはいいものを作りたい。中途半端には終わりたくない。
それにあたしは、佳代先生の苦しそうな顔やお姉ちゃんのあんなにも切ない顔を頭の中から拭い去ることが出来なかったのだ。
きっと彼女たちは、何もかもをかけて真剣にやっていた。"桜の園"を、奪われるまで、みんなで必死に。
妥協を知らない負けず嫌いは、きっと幼い頃からの悪いクセだ。
…でもそれは、間違ってなんかないでしょう?
時たま相槌を打ち、洲は黙ってあたしの話を聞いてくれていた。
やっと流れ出したあたしの言葉が落ち着いた頃、耳元で響いた落ち着いた声。
「…まだ始まったばっかりだろ?」
それは幼い子供をなだめるように優しく、そしてとても強かった。
「お前は何でも1人で抱え込みすぎなの!…なぁ桃、もっとさ、頼っていいんだよ」
俺だっていつでも、話くらい聞いてやれるしさ──洲の言葉はあたしには優しすぎて、不覚にも泣きそうになった。
幼なじみの憎たらしいチビッコの男の子は、いつの間にかこんなにも広く、大きな人になっていたのだ。
熱くなる目尻を必死に押さえるあたしの耳に、「洲〜!!」と彼の仲間が呼ぶ声が届いた。
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