こんな時間に誰だ、と眉をひそめながら携帯を割り開く。
チカチカと眩しく光るディスプレイ。
そこに表示された名前に、思わず目を見開いた。
──"町田 洲"──
「…洲?」
「おっす桃!元気にしてたかぁ?」
耳に当てるなり、深夜にはそぐわない弾んだ声が飛び込んできた。
「おっす…てアンタ、今何時だと思ってんの?」
「あ〜わりぃ!寝てた?今ライブ終わったとこでさぁ、テンション上がっちゃって…つい」
へへ、と照れたように笑う洲の声に、シワの寄っていた眉間も緩んでしまう。
ゴロリと寝返りをうつと、潜っていた布団から頭を出した。
「別に寝てないけど…てか洲、なんであたしの番号知ってんの?」
「はぁ!?お前なぁ…この前会った時交換したろ?」
「あ、そうだっけ?」
「おいおい傷つくだろー!!俺案外ナイーブなのに」
「はいはい」
ひっでぇ〜、と電話の向こうで洲の笑い声がする。
バンド仲間だろうか。微かに聞こえる彼の周りの話し声も、ガヤガヤとなんだか楽しそうだった。
『俺さ、6月んなったら東京行くんだ』
真っ直ぐに夢を語る、キラキラと輝いた洲の横顔を思い出す。
あたしが、失ってしまったもの。
諦めてしまった、色褪せた夢。
…本当は怖いんだ。
今あたしがやろうとしていることも、全部独りよがりで、空回りしているんじゃないかって。
「…桃…、なんかあった?」
そんなあたしを見透かすように、いきなり真剣なものになった電話越しの声。
「へ?な、何で…」
「や…声、ちょっと元気ない気がしてさ」
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