「じゃーんっ!!どうよ?」
あたしの心配をつゆ知らず、奈々美は早速しまってあった衣装に着替えてくるくると回って見せた。
ふんわりと広がったピンクのドレス。
長いスカートの裾は、段ボールでの長い暗闇から解放されて喜んでいるようにふわりと舞った。
「奈々美!マジ似合ってる〜っ!!」
「ちょーかわいいっ!!ねね、あたしもドレス着たい〜!!」
口々にみんなそう言っては、段ボールの中身を引っ張り出す。
集まりのためにせっかく片付けた部屋が、また元通りになってしまいそうだ。あたしは深くため息をついた。
「ちょっと…遊んでないで片づけようよ」
「なになに桃ちゃん、怒ってんの?眉間にシワ寄ってるぞーっ?」
「あのね…衣装とかそんなの後回しでいいでしょ?それより相談したいんだけど…会場とか日程とか、全然決まってないし。あと稽古の進め方も…」
「そんなのうちら素人なんだし、わかんないよ」
あたしの言葉を遮るように、奈々美の軽い言葉が飛んできた。
それを助長するかのように、美登里が頷きながら言う。
「そうそう、てかそういうの意外と何とかなるって〜!」
「稽古の進め方は、演出の桃が決めていいよ」
あはは、と明るい笑みを見せる彼女たちに、あんぐりと開いた口を隠せなかった。
何とかなるって…。真剣に話しているこっちが馬鹿みたいだ。
昨夜からずっと睨めっこしていた台本を机に放ると、窓辺の枠に肘をつく。
サワサワと揺れる桜の花びらは、苛立つあたしの心を笑っているようだった。
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