「─あたり一面、花に埋もれて真っ白だ。…妹よ、覚えているかい?この長い並木道はずっと先までまっすぐ帯のように延びていて、月の夜にはそれが明るく光っただろう?…もう忘れてしまったかい?」


葵の声は、あたしの奥底まで深く響いた。

ほぅ、と吐息にも似た息をつき、美登里はうっとりとした表情を浮かべる。

「葵、いいっ!!マジでロパーヒンっぽい!!」

「…ロパーヒン見たことないでしょ」

「ねぇ、桃!すごくいいよね?」

興奮したような美登里に、体をぐらぐらと揺さぶられる。あたしは深く頷いた。

照れた様子もなく、葵はサラリと笑ってあたしたちの熱視線を交わすのだ。

「ねぇ!これうちらで演りたくない?」

閃いたように突然そう言うと、奈々美は体を前に乗り出す。

いいかも、と何度も上下に首を振る美登里。


「葵が出たりなんかしたら大盛況だよっ!!」

「ね、決まり!ドレスとか憧れるじゃん?」

「こうやって、ねぇ!!」


美登里と奈々美は互いに向かい合うと、スカートの裾をつまんでお辞儀し合った。

そんな彼女たちの様子に、まいったなというように苦笑する葵。


…しかしその瞳は何かを宿したかのように、キラキラと輝いていることに気づく。

だからあたしも、気がついた時には流れに呑まれてしまっていた。


「桃!練習場所とかさ、やっぱあった方がいいと思うよね?」

「……?うん?」

「どうせなら顧問とかいた方がいいよねぇ?」

「…う、ん……」


にんまりとこちらを振り返る奈々美たち。

つままれたままのスカートの裾が、首を傾げるあたしに笑いかける。



「…というわけで、後よろしくね?」



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