良かったら、なんて言いながらも突き出された卵焼きは今にもあたしの唇にくっつきそうだ。

あまりにも必死な美登里が可笑しくて、あたしは笑うのをこらえながら卵焼きを口に含んだ。


ほんのり広がる、優しい甘味。


「おいしい…」
「ほんと!?良かったぁ〜!」

胸をなで下ろす美登里の隣でクスリと笑みをこぼす。そしてそのまま、彼女に笑顔を向けた。


「結城さんじゃなくて、桃でいいってゆったじゃん」


美登里の丸い瞳がより真ん丸になる。あたしの姿が、その中で揺れる。

そしてそれが弓なりに崩れた。


「…ありがとう」


そう言って美登里は嬉しそうに笑った。




花のないお花見は楽しかった。
外の空気は澄んでいて、肺の中が洗われていくような気がした。


「桜の園ぉ?」


あたしが台本のことを話すと、思っていたよりずっと、みんなは興味を示した。

シートの上で、ぐるりと台本を囲む。

「佳代ちゃん演劇部だったんだぁ!でも今って演劇部もうないよね?」

「うん…でもすごいねこの脚本。プロじゃないのにこんなの書けるんだ…」

しみじみと見入る三人。ふと顔を上げると、真剣に台本を読んでいる葵の横顔があった。

光が、透き通るような彼女の肌を際立たせる。


「ねね、葵!ここ言ってみて、ロパーヒン!!」


奈々美が指差した箇所には、何行かにわたるセリフがびっしり並んでいる。

肩を叩かれ、仕方ないなぁといった風に台本を持ち上げると、葵は息を吸い込んだ。


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