どうして美登里が──?
頭の中に、昨日の記憶が蘇る。
嘲るような笑い声。
女子特有の、語尾が上がったねちっこい響き。
『結城さんと話しても、面白くない──』
「ごめんなさいっ!!」
あたしの回想を振り切るように、緑はガバッと頭を下げた。
訳が分からなくて、あたしは突っ立ったまま突き出された後頭部を見つめる。
そんなあたしの肩にポンと手を乗せて、困ったように葵が言った。
「ごめんね結城さん、いきなり連れてきて。美登里がどうしても謝りたいって言うからさ」
「そうそう!昨日大変だったんだよ〜、どうしよーとか言って美登里、泣きついてくるし」
そう言ってふざけて泣き真似をする奈々美。
…だからか。
やっと腑に落ちた。だから葵は、あたしを誘ったんだ。
ゆっくりと上がった頭に続く美登里の顔は、不自然なほど真っ赤になっていた。
「あたし…言えなくて。そんなことないって、クラスの子に言えなくて…それどころか、合わせてあんなこと、言っちゃって…っ、」
ごめんなさい、ともう一度小さく呟くのが聞こえた。美登里の耳までもが、真っ赤に染まっている。
どうしたらいいかわからなくて、カバンの柄をぎゅっと握った。
「とりあえず座ろ、ほら!!昼休み終わっちゃう」
「ね、お弁当食べよっ!!あたしお腹すいちゃったあ」
葵たちに促され、シートの真ん中に座らされる。
早速広げられたお弁当の中身は、色とりどりに光ってあたしたちを待っているようだ。
「…あ、あのねっ!!これあげる!」
ずい、と口元に突き出された卵焼き。
焦げ目がなく、うっすらと張られた黄はとても優しい色。
美登里に握られた箸は、少し震えていた。
「うちの卵焼き、絶品なの!あの、ゆ…結城さんが、良かったら…」
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