背中に吐き捨てられた言葉に、思わず足が止まる。

「三年生で編入なんかしたくないわ。他に行くとこなかったんでしょ?」

突っ立ったままの足の裏からジワジワと、熱いものがこみ上げてきた。

あたしの頭のてっぺんまで、じっとりと浸食される。

でもそれは苛立ちじゃない。怒りでもない。もっともっと、


もっと黒くて重くて──あたしは。


「うちに拾ってもらえたんでしょ?そのくせに、勝手なこと──」

「拾われて悪い?」


静かな爆発だった。

あたしの中心で音もなくはじけたそれは、心の蓋を影もなく砕き潰した。


知らないくせに。
何にも知らないくせに。

しがみついていた世界がいつの間にか変わってしまって、ひっくり返って。

空っぽになってしまった人間の気持ちが、あんたにわかる?

生きることがこんなにもつまらないと、

今更知ってしまったあたしの気持ちがわかる?


立っている世界がぐにゃりと歪む。立っていられない。でももうどこにも動けない。


振り返ると、驚いたような丸い瞳がそこにはあった。

敵意を失くしたその光すら、今のあたしにとっては悪だった。


「こんなとこって知ってたら、絶対来てないっ!!」


そのまま教室を飛び出した。赤星さんが何か叫ぶのが聞こえたけれど、何を言ったのかはわからなかった。

廊下の窓から広がる景色には、全てどこかしらに桃色が混ざっていた。あるいは一面、桜の花で彩られていた。

どこへ行っても逃げられない。


ここは桜の牢獄だった。


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