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校門に足を踏み入れた時、辺りにはすっかり放課後の雰囲気が漂っていた。

真っ直ぐに教室へと向かう。誰にも会わない廊下には、自分の心臓の音だけがやけに響く。ドクン、ドクンと波打つそれは、あたしの足並みよりほんの少し速い気がした。

なんだか自分が、悪いことをしているみたいだ。


二組の教室のドアをそうっと開けて中をのぞくと、あたしの机の上に黒い皮カバンが乗っかっているのが見えた。

すましたようにきちんと、机の真ん中に居座っている。

ホッと息をついたのもつかの間だった。


「どこ行ってたのよ結城さんっ!?」


カバンの乗ったあたしの席のすぐ後ろ。

ガタっと引かれた椅子。手放された赤色のハードカバーの本がぱたり、机に横たわる。

そこには眉をハの字とは逆につり上げた、赤星さんの姿があった。

「先生方すごく心配してたのよ?カバンだけ残ってるし…あたし、取りにくるかもしれないって、待ってたの」

彼女の言葉は、最後の方はため息混じりになっていた。

何も言わずに黙っているあたしにしびれを切らしたのか、赤星さんははっきりと聞こえるような大きなため息をつく。


「…具合が悪いなら連絡くらい──」
「具合が悪かったわけじゃない」

ダン、と扉を叩くように開けると手荒に教室に押し入り、自分のカバンをひっつかむ。


「…だるいから、サボっただけ」


赤星さんの眉間が、怪訝なまでに歪んだ。

もうこの教室の空気を味わうのも嫌だった。


「〜待ちなさいよ!」


背中に鋭い声が飛んだ。でもそれは初めて会った時のように凛としたものでなく、感情に支配された声だった。

「あなたみたいな人のせいでクラスが乱れるの!怒られるのは私なのよ!?」

「だから?」

冷たい声であしらい、彼女の方を睨んだ。あたしがこうも反抗的な態度に出るとは思わなかったのだろう、彼女の瞳が一瞬怯む。

赤星さんは床に目線を落としたまま、赤い唇をぎゅっと噛んだ。


「…そんなんだから前の学校も、追い出されるのよ」

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