「東京…?…デビュー?」

「おう!インディーズだけどな。こうやってストリートでやってんのも、初心忘れるべからずって自分に喝入れてんの」


─信じられなかった。それが顔にそのまま出ていたのだろう、洲はあたしの頭をコツンと小突いて「ウソじゃねぇよ」と笑った。

ビルとビルの間に、太陽に照らされない灰色の空間。昔の映像が、小間切れに頭の中で上映される。


『オレこんどはぜってーまけねぇからな!!桃よりずぅっと、うまくなってやるんだからな!』

『あたしだってまけないもん』

『オレ、にほんじゅうでいちばんうまくなるんだからな!』

『ならあたし、せかいじゅうでいちばんになる!』



あたしが何もかもを見失っている間に、洲は自分の行きたい場所も、進むべき道も見つけていたのだ。


…眩しいばかりの自分の夢を、見つけていた。


「あ、今度ラストライブすっから来いよな。俺けっこういい曲作ってんだぞ?」

洲の話は、あたしの冷え切った現実にとってはまるで夢物語のように幸せだった。

嬉しそうに話し続ける彼の隣で、渇いた笑いを浮かべながら頭がひんやり冷えていくのを感じた。

幼い頃と同じ、隣に並んでいるのに、あたしだけが風化していく。急速に色を失った世界は、パラパラと今にも足元から崩れそうだ。


突如寂しさの波が襲う。高くて、あたしにはとても乗り越えられない。


置いていかないで。みんなみんな、あたしから去っていってしまわないで。


「…あ、ジュース代払う…って、やば!カバン学校に置いて来ちゃったんだ!」

「ははっ、アホだろお前!!いいって、俺のおごり!!今度、お前が出せよ?」

コツンともう一度、軽く額を小突かれた。

その時の洲はきっと笑っていたのだろう。眩しいほどに、屈託なく。


でもあたしは、逆光のせいで彼の姿を捉えることができなかった。





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