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真昼の街中は、少しもあたしの存在を認めていないようだった。
制服姿で、鞄も持たないあたしが浮いてしまうのは当然かもしれない。それでも人混みをよけ、ただひたすら続く道を歩く。
だって行くあても、戻る場所もない。
太陽は徐々に高い位置に登り、あたしの後ろに続く影を短くしていく。
じっとりと、背中に制服の生地が張り付いて気持ちが悪い。
ヴァイオリンをしていた頃、妬まれることはしょっちゅうで、嫌みを言われたり貶されたりするのは慣れていたはずだった。平気な顔をして、それどころかそれをバネにして練習に打ち込んだ。
でもそれはヴァイオリンという盾をあたしが持っていたからで、決してあたしが強いわけじゃなかったのだと今更に気づく。
「あっつ…」
うっとおしくて髪を耳にかけた時…風に乗って、笛のような音が聞こえた。
鼓膜を震わして、全身にじんと響く。
…何の音だろう。笛じゃない。もっと低くて、もっと高い。一体、どこから?
目を細めたその先に、不自然な人だかりが見えた。
丸く囲われたその中から、響く音の羅列。
あたしはそれに誘われるように、早足になってその音を追った。きっちりと組まれた人の輪の隙間から、中を覗き見る。
「────!!」
音の主は、男の子だった。
彼が手にするのは黄金に輝くサックスで、それが反射する光に乗っかるようにして生まれたままの、息づいた音が周りに飛び交う。
すごいと思った。肌が震えた。表面だけでなく、皮膚の裏も、そのずっと奥も。
真っ昼間に近づく太陽の光は、まるで彼のためのスポットライトのようだった。
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