足元が凍り付くのがわかった。喉の奥がヒリヒリと焼け付く。


「あーわかるソレ〜!!」

「ホラァ、あれでしょ?やっぱりコンクールで優勝とかしたことある人はプライド高いんじゃない?」

「はいはい、天才肌ってゆーヤツ?あたしら一般人とは違うのよ、みたいな?」

「あははっ!!ひっど〜ぉい、ね!美登里!!」


握っていた鞄の柄が、手のひらから滑り落ちた。


次の瞬間、耳を塞ぎたくなったから。



「…確かに結城さん、話しても面白くないよね〜!!」



ユウキサン、美登里が発したその音が耳の奥でぐわんぐわんとこだました。

ドアの隙間からちらりと見えた教室の中身。丸い頭のシルエットが滲んで歪む。

舞い散る花びら、嬉しかった言葉、昨日の彼女の笑顔が…あたしの中でくしゃくしゃになっていく。


『桃って呼んでもいい?』


「結城さん…っ!!」

鞄をそのままに、その場を走り去っていた。

葵の声があたしの後を追うのが聞こえたが、それを振り切るように階段を駆け下りる。

痛い、と悲鳴を上げるようにバタバタと鳴る上靴。

先ほどまでは綺麗に咲いていたはずの桜の花が、重苦しくあたしを覆う。息がうまくできない。


─本当に馬鹿だ。少しでも期待したあたしが、馬鹿だった。


何もかもから逃げるように、学校を飛び出した。


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