つぼみは次々に花開き、よりいっそうに桜の枝は重みを増していた。

あくびをしながら靴を履き替える。

その下駄箱にまで、毎日恒例の校舎への「おはようございます」が、絶え間なく響いていた。


(昨日は夜更かししすぎたかな…)


お母さんからもらった小説が案外面白くて布団の中で読みふけってしまい、いつの間にやら3時前だったのだ。

今日の授業も寝てしまいそうだな…そう思ってもう一度大きなあくびを漏らしたところで、


「あ!」


弾んで聞こえた声に、あたしは三本指が入りそうな大口のまま、動きを止めてしまった。


流れるような黒髪は、今日は一つにまとめられている。

あたしの真向かいの人物…葵は、こらえきれずに吹き出すようにして笑い出した。


「すっごい眠そう。おはよ、ここでよく会うね」

「お…っ、おはよう…」


慌てて口を二度と開かないくらいにぎゅっと閉じる。

そんなあたしの様子を見て、葵はまたおかしそうに笑った。


「…一緒に上がろっか!」




客観的に周りを見れば、みんながチラチラと葵に視線を送っているのがわかる。

その隣を歩くあたしは、ものすごく肩身の狭い思いなのだけれど。

二人一緒に登る階段。葵に昨夜の小説の話をすると、意外にも読んだことがあるという返事がかえってきた。


「葵、スポーツとかよく出来るからあんまり本とかに興味ないと思ってた…」

「あはは、何それ〜!!あたし結構好きだよ?確かに陸上も楽しいけど…そういえば桃ってさ、スポーツ何かやってたの?」

「…ううん、運動あんまり得意じゃないし…」

「じゃあ文化部?」


葵の問いに、なんて答えればいいのか迷った。

前の学校には部活動なんてものはなく、放課後は全てバイオリンの自主練に当てられていたから。

「…そんな、かんじかなぁ…」

「……?」


ちょうど辿り着いた教室の目の前。

じゃあ、と葵に右手を挙げた時だった。


…あたしの耳に、女子特有の甲高い声が飛び込んだのは。


「結城さんってさぁ、なーんかノリ悪いよねぇ?」


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