見覚えのある顔に、控え目に開かれた唇が「ごめん」の形に動く。

…そうだ、クラスメイトだ。さっきの輪の中にいたうちの一人。

不必要に集まってしまった視線をひしと肌に感じ、いそいそと追われるように二人して図書室を出る。

赤茶色の大きな扉を押し開けると、廊下の生ぬるい空気にあっという間に包まれた。


「ごめん結城さん!!驚かすつもりはなかったんだけど…」

「あ〜、うん。…アイス食べに行かなかったんだ?えーっと…」

「美登里。沢 美登里!!呼び捨てで読んでっ!!」

大きく弾んだ声に、人なつこい笑顔を浮かべる。そんな様子もまん丸い瞳もなんだかまるで小型犬みたいで、あたしにも自然と笑みが移る。

肩より少し上で切りそろえられた、丸いシルエットの髪。彼女が笑うたびにその裾が小刻みに揺れて、くすぐったいような気持ちになる。


少し話さないかと言われたので、図書室から少しばかり離れた踊り場の階段に腰を下ろした。

視界を埋め尽くすように咲き誇る桜は、風に揺られてまるで楽しそうに笑っているようだった。


季節を彩る、春の冠。


並んだ美登里の上靴はあたしのものとは違い、すっかり馴染んで彼女らしさが滲み出ていた。


「アイスはね、やっぱりやめにしたの。だって酷いんだよ?彼氏、久々に会った第一声が『あれ、太った?』って!!」

「…ふふ、だからか」

「ちょームカつく!!だから今度会った時はあたしってわからないくらいスリムになってやるんだからっ!!」

意気込む美登里がおかしくて、流れるように頬が緩む。

彼女の丸みを帯びた頭に、ひらり、舞い降りた桃色の花びら。

そっと手を伸ばしてそれを取ろうとすると、ヒュッと風が吹いて奪うようにそれをさらっていった。

伸ばした指先を持て余していると、美登里のくりっとした丸い目がこちらを向く。

「ねぇ、結城さんピアノとかはやってた?」

「…え?っと…」

「あたしやってたんだけどさぁ、ちっとも上手くなんなくて!!やっぱ手ぇ小さいとむいてないのかな?てゆーか、結城さんて彼氏いる?」

目まぐるしく降る質問の雨に、思わず苦笑いする。

「ちょ…一つずつにしてくんないかな?」

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