日差しは穏やかだ。穏やかすぎて、今のあたしにはすごく痛い。

今日もまた長い空白の時間を過ごさねばならないのか…そう思うと自然とため息が出そうになる。


「───?」


しかしあたしは、そのため息を思わず飲み込んでいた。



…視界に飛び込んだものが、信じられなかったのだ。



教室へ向かう廊下、通りかかったロッカールームの前。


そこには赤星真由子がいた。


ロッカーの影に隠れてわからないが、彼女は誰かと話しているようだった。

あの仏頂面の、口元ひとつ曲げなかった彼女が、照れたように…それでいてくしゃっと、瞳を輝かせて笑っていた。

棒立ちになったままのあたしには気づかず、彼女たちは話を続ける。


「赤星さんも見に来てくれてたんだ?この前の試合」

「あ…うん!!なんか、ほんと…すごかった!小笠原さんが飛んだ時、鳥肌立っちゃったもの」


(飛んだ───?)


そんな大げさな…、と赤星さんの相手は軽やかに笑って黒髪を揺らす。


思わず持っていた鞄を落としてしまった。


ロッカールームからのぞいた横顔は、間違いなく昨日のグラウンドで見かけた…彼女だったから。


バスっという鞄がへこむ鈍い音に、ハッと気づいたように赤星さんがこちらを向く。

大きく開かれたその瞳はあたしの姿を捉えると、戸惑うようにゆらゆらと淡く揺れた。


「あ…じゃあ、また…」

「あ、うん。またね赤星さん」


歯切れの悪い挨拶をした赤星さんは、鞄の取っ手をひっつかむとあたしの横をスタスタと歩き去る。

垣間見たその頬は、ほんのりと赤く染まっていた。

その場にはりついたように立ち尽くすあたしの視線は全て、残すところ無く吸い寄せられるように目の前の彼女にあった。

その視線に気づいたらしい、黒目がちな二つの光がこちらに向けられる。

彼女はあの日の放課後、見かけた印象そのものだった。


長い手足に、黒目がちな瞳は強い意志を秘め、流れるような黒髪は風を切って走る馬のたてがみのごとく、文句なしに美しい。


ただ違うのは、彼女があたしと同じ制服に身を包んでいるということだ。

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