もうすぐ家を出るお姉ちゃん。舞い戻ってきた、自分。


再びリビングに戻ると、もう机には夕食の準備ができていた。向い合う白いお皿には、なみなみと黒い液体が注がれている。


寄り道をするようにゆったりと孤を描いて立ち上っていく、あたたかい湯気。

あたしの姿を認めると、お姉ちゃんはエプロンを脱いで向いの椅子に腰かけて手を合わせた。
いただきます、それを合図に二人とも同時にスプーンを突っ込む。


シチューはまだ熱すぎて、舌の先がジンとしびれた。



(何話したらいいんだろ…)


テレビの音だけがやけに響いて、まるで気まずい沈黙を塗りつぶそうと必死になっているみたいだった。

何を話せばいいかなんて、そんなこと、家族相手に考えること自体がおかしい。



あたしがこの家に帰ってきてから、明らかにみんな戸惑っているように見えた。

真新しい、色味の違う家具のように未だに馴染んでいないのだ。


…まるで余分なものが、入り込んでしまったとでもいうように。


「学校はどうだった?」

「…へ?」


ぼうっとそんなことを考えていると、いきなりお姉ちゃんがそう言った。

慌てて口の中のものを水で流し込む。


「うん…、まだ、わかんないけど…」


あたしがむせ込みながら言うと、お姉ちゃんはそっか、と頷いて微かに笑った。


目の前にいるのは大人の女性で、彼女はもうすぐ自分の家庭を持つのだ。

あたしは彼女を自分の「お姉ちゃん」、という枠にうまく当てはめることができなかった。


テレビの向こうの人たちが笑う。キラキラと、表立った笑顔を見せて。


やっぱり火傷してしまったらしい。

舌の先はヒリヒリと、未だ熱を持っていた。





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