一通の手紙が届いた。



『結城桃 様』



それはとても控え目な薄い青の封筒で、そこにはとても綺麗な手書きの字がつづられていた。



『小笠原 葵』







東京の朝は早い。流れる人混みは常に慌ただしく、その流れを止めることはなかった。

空っぽの胃にコーヒーを流し込む。朝はどうも食欲がわかないのだ。


朝食はブラックコーヒーだけだ、その話をするとなぜか洲はいつも怒る。


…日本人の朝食は、ご飯に味噌汁、卵焼きはだし巻き卵で当たり前らしい。

そんなの知ったこっちゃないし、あたしは甘ったるい砂糖入りの卵焼きの方が好きだ。


そんな洲も、今日はのんびり日本の朝食とやらをとる余裕が無さそうだった。


「じゃ、行ってくっから!帰りは何時になるかわかんねぇけど、また連絡する」

「わかった。あたしも今日は打ち合わせだけだから」


何もつけないままの食パンをくわえて玄関から顔をのぞかせる洲。

あたしは手に取った青色の封筒をパタパタと彼に向かって振った。


「何それ?手紙?」


今日の天気は快晴だ。レースカーテンの隙間から差し込む光が、あたしに雲一つない空を想像させた。


「ん。…高校の友達から、だよ」







"桃、お元気ですか?"



東京の朝は、早い。

慌ただしい人波に、あっという間に流れる時間。

まるでボールの中で泡立てられるようなこの感覚にも、もうずいぶん前に慣れてしまった。


苦さが余計に舌にしみる、少し温くなったコーヒー。


あたしも時計を確認すると、重い腰をソファーから起こして机の上のバイオリンケースをつかんだ。



"ずいぶん長いこと話してないね。同窓会以来かな?

でも実は、あたし最近桃を見たんだ。一方的に、なんだけどね。"


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