□□


遠くの方で、カア、とカラスが鳴いた。まだ夕方じゃないのに…ぼんやりとそんなことを思って、窓の外に視線を移す。

けれどそこには白っぽい空が広がっているだけで、黒い彼の姿は見あたらなかった。


「ごめん、桃…あたしら、助けに行くつもりがかえって騒ぎ大きくしちゃったよね…」


授業時間はとっくに始まっていた。でもきっと、教室でも自習になってしまっていることだろう。


あたしたちは職員室から少し離れた進路指導室に隔離されていた。

ここで待機しているようにと言い渡されたあたしたちには、今職員室がどうなっているかはわからない。


しゅんと肩を落とす葵たち。あたしは、小さく首を振って、ふっと笑った。


「…もう…みんな、ほんと有り得ない。まさか全員乗り込んでくるなんて…あたしもビックリだよ」

「…ごめんね、桃──」

「ビックリするほど、嬉しかった」


一斉に上げられたみんなの顔が同じ表情だったから、あたしはまたこらえきれずに笑ってしまった。

みんなホッとしたように強ばっていた顔をゆるめる。しかし美登里は、すぐにその表情を暗くした。


「でも佳代先生、大丈夫かな…」


カア、またカラスが鳴く。

みんな互いに、心配そうに顔を見合わせた。


「…あたしたちのせいで、辞めさせられちゃったりしないよね?」

「─────、」


そんな訳ないよ──軽々しくそういった言葉を吐くことができず、あたしはただスカートの裾をギュッと握った。


…まさか、佳代先生が味方についてくれるなんて思わなかった。

あんなに、あたしたちの"桜の園"に反対していた第一人者。


『これ以上、みんなを巻き込まないで…"桜の園"のことは、もう忘れなさい』


佳代先生の頬に光る涙を、思い出した。


.