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遠くの方で、カア、とカラスが鳴いた。まだ夕方じゃないのに…ぼんやりとそんなことを思って、窓の外に視線を移す。
けれどそこには白っぽい空が広がっているだけで、黒い彼の姿は見あたらなかった。
「ごめん、桃…あたしら、助けに行くつもりがかえって騒ぎ大きくしちゃったよね…」
授業時間はとっくに始まっていた。でもきっと、教室でも自習になってしまっていることだろう。
あたしたちは職員室から少し離れた進路指導室に隔離されていた。
ここで待機しているようにと言い渡されたあたしたちには、今職員室がどうなっているかはわからない。
しゅんと肩を落とす葵たち。あたしは、小さく首を振って、ふっと笑った。
「…もう…みんな、ほんと有り得ない。まさか全員乗り込んでくるなんて…あたしもビックリだよ」
「…ごめんね、桃──」
「ビックリするほど、嬉しかった」
一斉に上げられたみんなの顔が同じ表情だったから、あたしはまたこらえきれずに笑ってしまった。
みんなホッとしたように強ばっていた顔をゆるめる。しかし美登里は、すぐにその表情を暗くした。
「でも佳代先生、大丈夫かな…」
カア、またカラスが鳴く。
みんな互いに、心配そうに顔を見合わせた。
「…あたしたちのせいで、辞めさせられちゃったりしないよね?」
「─────、」
そんな訳ないよ──軽々しくそういった言葉を吐くことができず、あたしはただスカートの裾をギュッと握った。
…まさか、佳代先生が味方についてくれるなんて思わなかった。
あんなに、あたしたちの"桜の園"に反対していた第一人者。
『これ以上、みんなを巻き込まないで…"桜の園"のことは、もう忘れなさい』
佳代先生の頬に光る涙を、思い出した。
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