…まるであたしみたいだ。
ぽつんと一人、席に座っていた赤星さんを思い浮かべる。
東京の音楽学校では、あたしはうまく友達を作れなかった。引き離されては悔しくて、引き離しては敬遠された。
互いに歩み寄ることなく、クラスメートはずっと敵同士みたいなものでしかなかったから。
「とりあえずニコニコしとけば大丈夫よ」
今朝お母さんはそう言って、あたしの背中を笑って送り出した。
相手の言うことに笑ってさえおけば、いいようになる。
あと一年。友達なんていらないけれど、月日が早く経つのを待つには、当たり障りない関係を築いておくのが一番だ。
たった、一年だけ我慢すれば。
「ね、結城さん!あたしたち放課後クレープ食べに行くんだけどぉ、結城さんも来ない?」
「ちょーおいしいトコ近くにあるんだぁ」
打算的な自分が、あたしの本心にフィルターをかける。
身を乗り出してくるクラスメイトたちに向かって、嬉しくてたまらないというように思いっきり笑って頷いた。
笑い声が意識から遠のく。太陽の放つ光はまだ白く穏やかなのに、背中にじんわりと汗が滲む。
今日の空も清々しいほどに青い。青すぎて、透き通った雲の姿は一つも見えなかった。
響き渡るチャイムの音。慌ただしく席へと戻っていく背中は、一つや二つじゃない。ギィッと椅子をひく音が、あちらこちらで響く。
いつの間にか赤星さんも戻ってきていて、机の上の赤い本は教科書に変わっていた。
のぞくようにそっと視線を送ったが、彼女はこちらを見向きもしなかった。
…さっそく敵を作ってしまったようだ。あたしはどうやら、とうてい彼女に好かれているとは思えなかった。
指定されたページを開く。当然まっさらなそのページに落とされていく先生の言葉。
彼女の発する言葉はまるでどこか違った国のものであるかのように、あたしには何一つわからなかった。
あたしが一つのものにのめり込んでいた間に、世間とはずいぶん離れてしまっていたらしい。
…それなら、その一つさえ失ってしまったあたしはどうしたらいいのだろう。
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