外に出ると、校舎に入る前とは違った空気があたしを待っていた。

ほんの少しひんやりと冷たい。きっと夜の気配を含んでいるのだろう。


グラウンドにはまだバーとマットが設置してあり、先ほどの黒髪の彼女は同じように、軽やかに宙を舞っていた。

飽きないのだろうか。騒がしいギャラリーも減ることはなくむしろ元気を増していて、あたしの眉間には自然とシワが寄った。


ふと前を歩く赤星さんを見る。


彼女の横顔はまるでグラウンドの中心に吸い寄せられるようで、細められた目がやけに印象的だった。


「赤星さん」

「…なに?」

「ヘンじゃない?あの子たち」

「……」

「だってあんなキャアキャア騒いじゃってさ。アイドルのコンサートでもあるまいし…」

細められた目が一層に細くなる。それが眉がつり上がっているせいなのだと気づいたときに、またわぁ…っという歓声が上がった。

風が頬を撫でる。

あたしの皮膚の体温を器用にさらっていく。


「あの──?」
「結城さん、一つ聞いていい?」


赤星さんはあたしの方に見向きもしないまま、尖った声でそう言った。

首を傾げるあたしに、ため息混じりで彼女は続ける。

「うちの学校、編入生なんて普通は取らないの。あなた、どうして?」

「……それは、」


言葉が詰まる。彼女のあの強い視線が、こちらを向いた。


「みんな頑張って受験して入ってるの。あなたみたいな人入れるなんて…すごく理不尽」


吐き捨てられた言葉は、あたしの中心に深く刺さった。

早足で去っていく背中。相変わらずそれは、嫌みなほどにピンと伸びていた。


「あたしだって…来たくて来たわけじゃない…」


握りしめた拳だけでは、心に広がる痛みを消化できなかった。

“あなたみたいな人”──言い返せない。だってあたしには、もう何もないのだから。



『あなたは逃げてる』



いつかの先生の言葉が、頭の中で酷く響いた。


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