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眠るとき、あたしはいつも豆電球がひとつ、ついていないと眠れなかった。
真っ暗な闇が、あたしはずっと苦手だったんだ。何も見えない世界、あたしの足元にぽっかりと穴があいていて、少しでも動いたら落っこちてしまうんじゃないかって。
今、あたしの周りは暗闇だった。深い深い、漆黒の闇。
浮かんでくるのは後悔や失望ばかりで、あたしを深く黒い海の底へ沈めていった。
駅前の大きな液晶テレビでは、ちょうど天気予報が始まったところだった。
「台風は依然、強い勢力を保ったまま北東へと進んでいます。今週末にもっとも接近する恐れがあるのは──」
缶コーヒーを一口、口に含む。転がすようように舌で味わうと、じんわりと苦味が体に染み込んでいくようだ。
駅の構内にいる数人の客が、幾度もあたしに不審な視線を投げかけてくるのがわかった。それもそのはずだ。もう夕方過ぎのこの時間帯、駅前のロータリーに制服姿で一時間以上もぼうっと座っているのだから。
どうするつもりもなかった。行くあても、帰る場所もなかった。ただぼうっと、空気が冷たくなっていくのを感じていた。
カバンを抱えたスーツ姿の会社員が、忙しそうに駅の改札に吸い込まれていく。あたしと同年代くらいの女の子たちが、キャアキャアと楽しそうな笑い声を上げてどこかのショップ袋を振り回していた。
前も後ろも、右も左も…行き交う人、人、人。
誰もが自分の目的に向かって歩く。彼らの視界に、あたしは映らない。
だけどあたしには、行くべきところなんて一つも無かった。
…缶の中身が半分ほどになり、黒い液体がとっくに冷たさを失った頃だった。
あたしの後ろで、忙しなく駆けてきた足音が止まったのは。
「…お前なぁ、なに優雅にコーヒーとか飲んでんだよ」
息を切らしてやってきたあたしの待ち人は、脱力したようにあたしの前に腰を下ろした。茶色い髪が、少し乱れている。
あたしの手の中から缶が滑り落ちて、カランと渇いた音が響いた。
「洲……、なんで…」
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