目に熱いものがこみ上げた。

あたしはいつも自分のことばかりで、周りのことなんて一つも見えていないのだ。

今もこうやって、なんにも関係ないお姉ちゃんに八つ当たりなんてして。


お姉ちゃんの足元に散らばった教科書の中に、もうシワシワになった一冊の白い表紙があった。


「これ……」


お姉ちゃんがそっと拾い上げる。


"桜の園"──それはあたしたちの…お姉ちゃんたちの、台本だった。


「もういいの…」


白く浮かび上がるお姉ちゃんの肩。あまりも頼りなげなその線は、ぼんやりと鈍く薄闇に溶け込む。


月光がようやく姿を見せる。姿を隠した太陽のかわりに、囁くように、すべてのものを眠らせるように。


…終わらせるように。



「もう…いらないの……」



何で気付かなかったのだろう。



──あたしはもう、とっくに息絶えていたんだ。



呆然と立ち尽くすお姉ちゃんを押しのけるようにして部屋を出た。

足にローファーをはめる。行き先なんて、どこにもなかった。



『…つーか、ほんと話ならいつでも聞くから、電話して?つーか、しろ。』




ただどうにもならない状況で、あたしの指が探り当てたのは…携帯の電話帳の、「町田 洲」の名前だった。





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