『結城さんてさぁ、最近もうガタ落ちだよな〜』
『最初は天才とかもてはやされてたけどぉ、まぁ所詮運良かっただけみたいな』
『あはは、言えてる〜!!なのにお高くとどまってヤなかんじだよね〜!』
落ちていくクラス。クラスメートの陰口。バイオリンを弾くのが苦しかった。弾かなきゃあたしの意味がないのに、呼吸ができないのに、苦しくて仕方がなかった。
あたしは必死にしがみついていた。でもその腕を、すっぱり切り離されてしまった。
『…今までの人生、棒に振ることになるわよ』
「…っ、ゲホッ!!」
ひどい吐き気に襲われてベットにうずくまった。視界が生理的な涙で滲む。
自分の首を自分で絞めてやった方が、きっと楽なのかもしれない…頭の隅で、そんな考えが浮かぶ。
助けて。助けて。たすけて、誰か──。
もう一度強くシーツに顔を埋めたとき、玄関の扉が開かれる音がした。
「ただいまぁ〜!!」
ガザガザと慌ただしい音と共に、真昼間みたいな明るい声が飛ぶ。
すぐにお姉ちゃんだとわかった。何も考えていないような能天気な声に、胸の底がよどめいた。
あたしのローファーが玄関にあることに気付いたのか、二階へ上がってくる足音がした。
「桃ぉ〜、帰ってんの?」
…放っておいて。お姉ちゃんには、こんな悲惨な自分を見られたくない。
あたしが何も言えずに黙っていると、お姉ちゃんはノックもせずにあたしの部屋のドアを開いた。
「なんだ、いるんなら──」
「〜っ!入ってこないでよ!!」
力任せにひっくり返したカバンからノートやら教科書やらを投げつける。頭の中が、沸騰したように熱い。
お姉ちゃんはびっくりしたように、身体をこわばらせて目を見開いた。
薄暗い部屋の中で、その瞳だけが揺れて光る。
そのままつり上がって怒ってくれればよかったのに、お姉ちゃんの目元は心配そうに垂れ下った。
「何があったのよ…桃……」
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