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視界は隅々まで真っ赤だった。余るところなく、残すところなく。


それは夕焼けの空というよりも、炎の中の情景だった。

雲は赤に沈み、焼け付くようなその空はあたしの心までどっぷりと飲み込む。


この中で焼きちぎれてしまったなら、あたしはきっと残ることなく消えることができるだろう。




家に着いても、まだ誰も帰っていないようだった。

靴を脱ぎ捨てると迷うことなく自分の部屋へ駆け上がる。部屋には選び落とされた教科書などが散らばっており、朝の慌ただしさの残骸のようだった。


制服のままベットに飛び込むと、枕に深く顔を埋める。息苦しかったけれど少しも構わなかった。

…その方が、何も考えなく済む気がした。


いつもの習慣でMDコンポの電源を入れると、途端に部屋に人口密度が高くなったような錯覚がおこる。ガヤガヤと賑やかな、明るい音楽。

回るCDの中で歌わされるアーティストは、どこか現実味がない。

先ほどからずっとカバンの中から携帯のバイブ音が響いていたが、あたしはそれを震わせたままにして放っておいた。


肺から空気が逆流する。息苦しくて死にそうだ。


…怖かった。気がついたら体が震えていた。


昔の記憶が、フタを外したように蘇る。




『結城さん、今回も素晴らしい結果よ』

『次回も先生たち、大いに期待してるからね』


肩に手をのせて満面の笑みを浮かべる先生たち。それは無言ながら、あたしに「賞をとりなさい」と語りかけているようだった。


東京の音楽学校で、最初のコンクールでいい賞を取ったあたしに周りからのやっかみはひどかった。バイオリン仲間たちとは、うまくやれなかった。露骨に何か言われているわけではなかったが、水面下ではみんなあたしのことを嘲笑おうとあたしの転落を願っているのだ。

気を抜けない日々だった。隙を見せるなんて、とてもできなかった。

でもあたしは耐えるしかなかったのだ。唇を噛みちぎるほどに噛んでは、練習に打ち込んだ。あたしにはバイオリンしかなかった。それだけしか、無かったから。

しかし二年の後半、という時になって、あたしはめっきり成績を出すことができなくなっていた。

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