「え……?」


カン…、と頭を思い切り殴られた気がした。


美登里の膝に置いていた手が滑り落ちる。

だらんと垂れ下がったそれは、命を無くして前後に揺れた。


「ほ…本当に!?確かめたの!?」

「ううん…、でもアレ全然来ないし、最近すっごく眠くって…っ、眠くて、昔ママが私妊娠したとき、眠くて眠くてしょうがなかったって言ってて…っ!!」

「それはいつもじゃん。眠い眠い〜って」

「もっともっと眠いもん…っ!!」


美登里は顔を抱えて小さくうずくまる。

またさっきの引きつけが繰り返され始めた。


「…彼氏はなんて?」

「昨日そのこと話したら…アッくんすごくショックだったみたいで…一人でいろいろ考えたいって…」

「とりあえず検査しなきゃ。薬、一緒に買いに行く?」

奈々美がそう言うと、美登里は激しく首を振った。美登里の手を握ったまま、奈々美も途方に暮れてしまったようだ。


「どうするつもりなの?」

「わかんない……もうどうしていいか……っ!!」


わぁぁ…っと泣き崩れる美登里を抱きかかえるように、葵がしっかりと受け止める。

もうとっくに、休憩時間は過ぎていた。


美登里の泣き声が聞こえる度に、足元がガラガラと音を立てて崩れていく気がした。

目の前で一体なにが起こってるんだろう。

あたしの眼球はまるでガラス玉になったみたいに、ただその光景が映されては通り抜けていく。



『妊娠してしまった子がいたのよ、部員の中にね』


張りつめていた糸が千切れてしまったように、勢いよく流れ込んでくる声。

過去のフィルムを一斉に上映するように、頭の中が埋め尽くされる。

呑まれるように、黒い影があたしを追う。



逃げられない。だってどこに走っても、何もかもを埋め尽くす桜の牢獄だけ。




『…"桜の園"は、上演中止だって』




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