「ど、どしたの美登里?」
「美登里、大丈夫?」
すぐにソファへと駆け寄る葵。
葵に支えられた美登里は、いっそう強く泣き出してしまった。
一年生たちは困り果てた様子でただオロオロと戸惑っている。
「…とりあえず、休憩にしよう」
あたしがそう言うと、後輩たちはみんな心配そうに部屋を後にする。
赤星さんも気を聞かせたのか、スッと外へ出て行った。
残ったのは奈々美や葵、そしてあたしだけ。
「…何があったの?」
しゃがみこんであたしが尋ねても、美登里はただ首を横に振るだけで何も話そうとしない。
静まり返った教室には美登里の引きつけの声だけが響いて、あたしは小さくため息をついた。
「美登里、黙っててもわかんないでしょ?」
「わかったぁ!最近彼氏とうまくいってないからでしょ。この子今、倦怠期なんだってぇ」
明るい奈々美の声に美登里は頷くことも否定することもせず、ただヒック、と引きつけを繰り返した。
「あのさ…稽古中はもっと集中しよう?」
「そうそう、気持ちはわかるけどさぁ、男はアッくんだけじゃないってぇ」
星の数って言うでしょ?奈々美がそう言ってあやすように背中を叩くと、美登里がゆっくりと顔を上げた。
涙で張り付いた前髪に、くしゃくしゃに歪んだ唇。崩壊したダムのように、美登里の瞳からはとめどなく涙が溢れた。
「アッくんしかいないの…」
「そうかもしんないけどさ、美登里泣かせるなんてサイテーじゃん。さっさと別れて次の人──」
「ダメなの」
美登里の潤んだ瞳が揺れて、睫毛の先にあった涙が崩れるようにソファに落ちた。
あたしの手の甲にも、冷たい涙が一粒落ちる。
「…デキちゃったかも……」
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