セットのソファを真ん中に置き、そこに奈々美と美登里が並んで腰掛ける。
ドレスを着た奈々美と、制服姿のままの美登里。その一角だけが今と昔の時代が交錯しているようだ。ドレスで隠れた膝元と、プリーツスカートからのぞいた膝小僧。
シンと静まり返った教室には、グラウンドから聞こえる部活動の声だけがかすかに響いている。そこだけが日常で、隔てられたあたしたちの世界と繋がっていた。
出番がない人は、黙って真剣に二人のお芝居を見守っていた。
順調に進んでいく二人の会話。奈々美はドレスを着ていることもあってか、ずいぶんと役になりきっている。
…しかし見るからに美登里の顔色は悪かった。
どんどんと青ざめるその顔からは血の気が引いていき、明らかに演技に集中できていない。
「ね、あの人、申し込んできた?…彼はあなたのこと好きなのよ。どうしてちゃんとお話しないの?二人とも、いつまで待つ気?」
「…私、思うのよ。多分何も出てこないって。」
美登里の言葉尻が、儚げに震える。
いくらなんでも演技ではないと気づいたのか、奈々美の顔に心配の色が浮かんだ。
「…美登里?」
「あの人は忙しくて…私どころじゃないんでしょう。いっそ消えてくれればいい。顔を見れば、かえってつらいわ…」
奈々美に握られた手。
耐えきれなくなったかのように、美登里の顔が明らかに歪む。
「…っ、みんな、あたしたちが…結婚するものだと思ってるけど…本当は、影も形もない話。…夢みたいなものよ……っ」
ポツリ、ポツリ。
茶色いソファーに、いくつもの染みができる。
それは突然降り出した雨のように、美登里の頬をひどく濡らした。
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