「いいですよ」
「ありがとう」
俺は心音ちゃんを連れて、駅とは真逆の方向へと歩みを進めた。
☆*☆*☆*☆*☆
「あの…先輩……?ここって……?」
「俺が…生まれ育った家だよ」
最後に返ったのは、確か中3の冬。
それ以来はこの場所に踏み入れていない。
「ここが…?」
「そうだよ」
心音ちゃんが驚くのも無理はない。
だってそこには…
─────まるで生活感のない家が佇んでいるだけだから。
高校に入ってからは誰にも話したことがない。
話す必要がなかったから。
だからこの場所を知ってる人も、もちろんいない。
ここは、この町は。
どうしても辛くなった時、
どうしても悲しくなった時、
ふと立ち寄る、俺の秘密の場所。
「俺ね、──────両親がいないんだ。生まれた時から」
これは、誰も知らない。
───────────俺の秘密。
「生まれた、ときから…?」
「うん。そう。正確には…捨てられたって言った方が正しいのかな」
なんで話し出したのかは分からない。
ただ…心音ちゃんには知っておいて欲しかった。
「どういう、事ですか?」
「うん。始めから話すよ」
俺は、この自然の多い小さな街に生まれすぐに親に捨てられた。
もちろん、生まれたばかりで記憶なんてない。
その後はたまたま通りかかった施設の人に助けられ、3歳までは施設で育った。