その時、後ろには裕くんが見えたけど…
きっと今はお父さんと話してるんじゃないかな?
離れていた時間をうめるくらいに、たくさん。
だって裕くんはきっと…ずっとお父さんに会いたかったはずだから。
あたしたちに気をつかってか、裕くんが自らお父さんの話をする事はなかった。
それでも……姉弟だからわかる。
裕くんは…物心つく前にいなくなったお父さんの事がずっと気になってたんだよね。
我慢させてごめんね。
気を遣わせてごめんね。
お父さんに会えてよかったね──────
家を出てからお父さんは、すぐに手術を受けた。
たくさんの───────借金をかかえて。
時には逃げ出したくなるほど辛いこともあったけど…それでもあたしたちの事を思い浮かべては自分を奮い立たせて頑張ったってさっきお父さんが言ってた。
そうして受けた手術は無事成功。
奇跡だ、とも言われたらしい。
だけど…癌とは再発の恐れがある病気で。
完全に治った、と言えるのにはまだたくさんの時間が必要だった。
加えて、退院したお父さんにのしかかる多額の借金。
だけどお父さんはそんな厳しい現実と向き合い、いつかまた再発するかもしれかい恐怖と戦い続けてきた。
そして今年の夏────────
ようやくかかえていた借金を全て返済し終え、再発の可能性もほとんど薄れたお父さんは。
あたしたちに会うため、この街に戻ってきた。