「───だからあの時の俺には、ああする事しか方法が思いつかなくて…。それが結局お前たちを苦しめた。本当にごめんな……」
「あなた…謝らないでよ…っ!謝ることなんて、何一つないじゃないっ。むしろ謝るのは私たちの方よ…。勝手に勘違いして、あなたを悪者にして……。まさか────────癌(ガン)だったなんて…っ!」
お父さんが隠していたヒミツ。
それは………………癌だった。
9年前のある日、それは急に発覚して。
診断によると、手術をしても助かるか分からないほど癌は進行していたらしい。
─────『最初は話そうかとも思ったんだ。でも………出来なかった』
うちの家計はもともとそんなに裕福じゃなくて、手術に使えるほどの余分なお金なんてなかった。
それでも話をすれば
“手術を受けよう”
お母さんなら必ずそう言うと思ったから言えたかったと、お父さんは言った。
─────『だけど俺には死ぬ覚悟なんて出来なくて。だから、家を出ることに決めたんだ』
家にいれば、いずれはバレること。
手術を受けると決めたとしても。
受けてしまえば生活が苦しくなってしまうことなんて容易に想像できるわけで。
あたしたちにまで苦労を負わせるくらいなら、1人で背負った方がいい。