「お前達、先生の話が聞けないなら教室から出て行け!煩い!」
 
 「はぁ?オメーの方がうるせーよ!」
 
 「何!?いい加減にしろ!出て行け!」
 
 「だーかーらー!オメーがうるせーの!」
 
 「やる気がないなら出て行け!」
 
 「お前が出て行け~あははは~。」
 
 
 
 
 
 昼は働き夜学ぶ。
 なぜか小学生の頃から決めていた自分の進路。
 
 定時制高校に入学してすぐ、15歳を過ぎたアタシと先生の会話。
 
 本当、先生の言う通り。
 やる気がないなら行かなければいいのに通った定時制。
 
 夢もない、やりたいこともない。
 
 中学で紹介してもらった近所のエアコンを造る工場で昼働き、
 夕方から学校。
 
 何となく過ぎて行く毎日。
 
 1年で限界を迎えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 16になり
 働いていた工場を辞めた。
 
 「あんた、一緒に働かない?」
 先輩に誘われスーパーで働き出した。
 
 何もわからない中、急な上司のリストラが原因か、
 突然部門のチーフを任せられた。
 
 いや、違う。
 
 「やらされた」の方がしっくり来る。
 
 
 
 
 
 
 何となく引き受けてしまったが現実はそんなに甘くない。
 ありきたりだが心底そう思った。
 
 
 毎朝午前4時には店に居た。
 真っ暗な店の中、灯りを点け1人黙々と作業した。
 
 
 夕方からはレジ打ち。
 そして最後の締めの作業。
 
 
 毎日早朝から夜遅くまで働いた。
 いっそ職場に寝床を作ろうかとさえ考えた。
 
 人手不足も重なり、休みもまともに貰えなかった。
 きつかった。
 本当に。
 
 
 
 「死んだ魚のような目をしてる」
 
 
 そう言われたこともある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「お前がやるって言っただろ!数字を出せ、数字を!」
 
 「すみません、でももう出来ません。」
 
 「もう出来ませんなんて言える程努力したのか?」
 
 「限界です、辞めさせてください。」
 
 「逃げるのか?」
 
 「・・・逃げません!」
 
 
 
 
 何回繰り返しただろう・・・
 店長とのやり取り。
 
 そんな中でもやりがいを感じていたし充実もしていた日々。
 18歳の誕生日を迎えたその日までは。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 この日をまだかまだかと待ちわびて居たのだろう。
 母の様子から痛い程伝わってきた。
 
 「ごめん、お金借りてほしい!」
 
 「はぁ?」
 
 「ごめん!」
 
 
 
 家の中の空気が重くなるのが昔から本当に嫌だった。
 
 その家の中の空気を握っている人物。
 
 
 「いいよ、わかった。」
 
 
 
 アタシに選択肢なんて最初から用意されていない。
 ましてや(NO)なんて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 本当にまれに仕事を早く切り上げられる日があった。
 
 
 
 
 「おかえり、洗濯物取り込んで米炊いておけよ」
 
 「うん」
 
 昔のテレビドラマの再放送を部屋の真ん中に寝転がって見ている父。
 
 存在が怖くて怖くて何も反抗出来なかった。
 
 言われたことはすべて
 
 「はい」
 
 
 
 
 「疲れた」
 
 そんな言葉を発することさえアタシには夢のまた夢みたい。
 
 
 
 
 母が帰って来るのが待ち遠しくて待ち遠しくて堪らなかった。
 
 
 冬の冷たい雨の日、真夏の炎天下の空の下。
 毎日休まず交通整理をしていた母。
 
 元々白かった肌の色も、気付けば真っ黒になっていた。
 
 
 
 
 
 「ただいま」
 疲れきって帰宅する母に父は優しかった。
 
 
 「風呂沸いてるよ」
 「肩揉もうか?」
 
 
 
 
 ヘドが出るほど気持ち悪かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「毎月3万じゃ少ねーから今月から5万入れてくれ」
 
 「はい」
 
 
 当然のように言われた。
 
 そして当然のように承諾する。
 
 
 
 子供の頃から
 「家で1番偉いのはお父さん」
 母に言われ育った。
 
 どういう意図で母は言って居たのだろう。
 なんと言うかこう、(理想の家庭)みたいなものがあったのだろうか。
 
 
 ″一家の大黒柱″
 いつも仕事で家に居ないが愛する家族の為必死に働くそれ。
 
 うちにはか細い木の枝が転がっているだけ。
 柱など見当たらない。
 
 
 
 アタシの中のアタシの軸を支えてる歯車が噛み合わなくなる
 のを日々感じながら
 「ガシャン!」
 と壊れてしまうその日に怯える毎日だった。