「ねぇ、良ちゃん」
「……ん?」
「いつから……気付いてたの?」
「何が?」
「あたしが……秀のこと」
「……始めっから気付いてたけど? 高校のときから」
「えっ、うそ」
「ほんと。あのなぁ、何年付き合いあると思ってんの? そんなのお見通しだっての」
「そっか……」
「あー、失敗したーって思ったけどね、あのときは」
「何それ……」
「うそうそ、冗談だよ」
風に乗って、潮の香りが鼻を通っていく。
波はやっぱり休みなしに打ち寄せ、行ったり来たりを繰り返していた。
一年前のあの日から止まることなんてしてない。
「……なぁ、亜希」
ポツリと良ちゃんがわたしを呼ぶ。
オレンジ色に染まった太陽が、海風になびく良ちゃんの髪を明るく透かしていた。
「泣きたかったらさ……泣いてもいいから」
広がる海に目を向けたまま、良ちゃんは静かにそう言った。
四十九日を迎えたあの日から、わたしは人に涙を見せなくなった。
もちろん、独りで密かに泣くときはある。
でも……
それももうやめようと思ってる。
「もう……泣きたくないの」
そう言うと、良ちゃんの視線はあたしの横顔に向けられた。