「だから、秀に……伝えたいことがあるの」
一気にそう言うと、会話はなぜか途絶えていた。
不安にさせるような沈黙が流れる。
わたしは唇をきゅっと結び、秀の声を待った。
『……今から、行くから』
やっと聞こえてきた秀の声は、いつも通り、あの穏やかな声だった。
落ち着いた、優しい声。
わたしの大好きないつもの秀の声だった。
『俺も……亜希に渡したいものがあるんだ』
「うん……」
『それと、約束したもんな。戻ったら……って。それは…会ってから』
「……うん」
『ちょっと遅くなっちゃうけど、すぐ行くから』
「待ってる……来るまで待ってる」
すぐ行くから。
そう言ってくれた秀の声は、今までで一番優しく聞こえた。
『でも、外で待ってんなよ?』
「え……何で?」
『寒いから』
秀はそう言って微かに笑う。
こんなときでも軽く余裕の返しをされて、嬉しい気持ちに少し反抗したい気分が混じった。
「寒くないもん、ここで待ってるし」
『駄目だって、また熱出すから』
「平気! だって、すぐ来てくれるんでしょ?」
『……行くけどさ』
「じゃあいいじゃん?」
『ったく……わかったよ。着いたら電話するから』
「うん、わかった。気をつけてね……」
待ってるから…
早く来てね……?
会いたい気持ちを抑え、わたしは電話をきった。