「えっ、ほんとですか?」
「うん、ほんと。まだまだこの店でお世話になるつもりだから」
「そっか、よかったー……てっきり寿退社ってやつかと思った」
「何言ってんの、今どき共働き時代じゃん? それに、この仕事辞めたくないしね」
「じゃあ、これからもよろしくお願いしますね? わたしの爪」
「もちろん。わたしでよければ」
「あ、あと……今日は、本当にありがとうございました」
「え? 何、改まって……」
仕上げのオイルをつけながら、志乃さんはわたしの顔を不思議そうにじっと見る。
「あぁ! 爪です。あと、いろいろ話してもらって、その両方に」
もちろん、やってもらった爪のお礼も言いたかった。
でも、志乃さんの話にもっとお礼を言いたかった。
考えてもわからなかったこと。
自分の探してた言葉。
その答えが見付かった気がする。
そんな感謝の気持ちを含めて、わたしは志乃さんにありがとうを言っていた。
いつかここで……
志乃さんに、秀のことを話す日がくるのかな……?
きっと……くるよね?
そう思うと、少し嬉しい気持ちになった。
「それじゃ、お幸せに」
「やだなぁ、そういうの。やめてよ」
「何言ってんですか。あ、次来たとき、また話聞かせてくださいね?」
「はいはい。気をつけてね? ありがとうございました」
幸せな志乃さんに見送られ、わたしはお店を後にした。