図書館からの帰り道

色鮮やかな落ち葉の上を歩く度
秋の匂い、音がする。


「っわ…!」

ビュッ!と、勢いよく吹いた風が

肩にかけていた私のマフラーを飛ばしていった。

慌てて追いかけると、
マフラーはある男の人の 腕の中に見つかった。

拾ってくれたんだ。
迷いなくそう思った私は、
「ありがとうございます!」と彼に駆け寄る。

けれど彼は予想外に「え?」と、
不思議そうな表情を浮かべた。


「え…っと、そのマフラー私のじゃ…?」
「いや、これは僕が家から持ってきた…、
あ!」

困惑しながら答えていた彼は突然、
私の後ろの方を指さした。
私もつられてそちらを振り向く。

目に入ってきたのは、
枝に引っかかって揺れている私のマフラーだった。


「あんなとこに…」
「飛んで行ってなくて良かったですね」

取るのが難しそうで顔を顰めていた私に、
彼は枝先のマフラーを見上げながら
そう言った。

たしかに、そのとおりだ。

「はい」と答えてから、
私は枝に駆け寄って精一杯背伸びを試みる。

けれど、指先がフリンジを掠めるだけ。

…どうしよう___


「―っ、よし、取れたっ!」

つま先立ちをやめて悩んでいた時

不意に影ができたと思ったら、
あの男の人が私の上から手を伸ばして
マフラーを取ってくれた。

「はい」と、渡されたマフラーを受け取る。


「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」

私は、次は飛んでいかないように。と、
マフラーを首にしっかりと巻く。

すると「お揃いですね」と頭上から声が降ってきた。


「え?」
「マフラー。見間違えるのも仕方ないくらい
よく似てる。」

そう笑うと彼もまた、マフラーを首に巻き出した。

彼がこちらを見ていないのをいいことに、私はじっ、と見つめる。

…なんかこの人、見たことあるんだよなあ。

どこでだっけ。と頭の中を巡らせていたら、
彼と目があって思考が停止する。


「じゃあ」

会釈してから去っていくその背中に、
私は「ありがとうございましたっ」と声を掛けた。

もう会うことはないだろうけど、
素敵な人もいるもんだなあ。

なんて、呑気に余韻に浸りながら。