あれから、何度も何度もあの空き病室で会った
彼の名前はきいていないけれど、何号室かもきいていないけれど、本当になんにもしらないけれど
一緒に居ると、すごく非現実な感じがした
それは私が長い間望んでいたこと
目を覆うように頭部をぐるり、包帯で巻いた、優しいひと。
それだけしかしらないことが、逆に私をわくわくさせた
本当に楽しかった
着替えを届けに来たお母さんも私が入院生活を楽しんでいることが伝わっているらしく、新しいお友達ができてよかったわね、なんて推測でものを言ってくる
親のカンっておそろしいものだよね
でも最近彼は元気がない
どうしたの?ってきいても、彼はただ笑ってはぐらかすだけ
こっちは、心配でたまらないのに。
でも、あまりしつこく聞くのもいけない気がした
詰問はしないまま、時間は過ぎて、長袖の季節になった
息が吸えない、吐けない、くるしい。
そんな日が続いていても、改善が見られれば私は変わらず会いにいった。
そんなある日の夜、彼は私に言った
「ぼくさ、もうダメなんだ。だから、もう、サヨナラしなくちゃいけなくて」