「しかしだな…」
「お父さんの負けよ、もう」
お母さんが、お父さんの背中にぽんっと触れた。
「一人娘を嫁にやりたくない気持ちもわかりますけど、この二人の決意は固いわよ?」
「母さん…でも、俺はー…」
「お父さんは学校行事に参加したことがないから知らないと思いますけど、高橋先生って本当に素晴らしい先生よ」
「な…」
「保護者の中でも評判良かったですし、何よりも生徒から信頼されている先生って聞きました。そんな高橋先生を射止めた泰葉は、さすが私の娘よ」
「う…」
「確かに、高橋先生が生徒である私たちの娘とお付き合いしたのはいけないことだったのかもしれない。けど、それがあったから泰葉は将来の夢が決まって、今こうして教師として頑張ってる。結果として、高橋先生が正しい道に導いてくれたのよ」
お母さんー…
「…母さんの言う通りかもしれんが、一人娘をこんなに早く嫁にやるなんて思ってもみなかったんだ。ちょっとぐらい、反対させてくれ」
ぼそぼそっと聞こえた、お父さんの本音。
「反対するのはいいですけど、あんまり困らせないでくださいよ?泰葉も高橋先生も、忙しいんですから」
「う…母さん…」
完全に、お父さんが押されている。
でも、少しホッとした。
お父さんが反対しているのは、先生が生徒だった私と付き合ったのが原因じゃない。
隣に座っている先生をチラっと横目で見ると、目が合った。
思わず、お互い笑ってしまった。
きっと、先生もホッとしているー…